絵本への憎しみを手離すたった一つの方法
今回は、絵本について書く。
自分は末っ子の小5の次女が入学した年から、小学校で朝の会の前に子供達に絵本の読み聞かせをするボランティアをしている。
このボランティア活動に参加することを決めたのには2つの理由があって、まず1つめは職業柄、本が好きな子供を増やす手伝いをして、未来の読者を育てなければと思ったからだ。
そしてもう1つは、《人前で話すと声が震える》という自分のコンプレックスを克服したかったからである。
小学生の時はなんともなかったのだが、中学に上がってから、国語の朗読の時に、突然、声が震えるようになった。
自分でも、なぜそうなるのかが分からず、咳払いをしたり、少し休んだりしながら教科書を読むのだが、どうしても、まるで泣いているような震え声になってしまう。
自分が朗読を始めると、クラスメイト達はなんで教科書を読みながら泣いているのかと怪訝そうにこちらを見てきて、いつもいたたまれなかった。
高校に上がる頃には少し症状が治まったのだが、それでも長い時間、人前で話していると、だんだん震えてきてしまう。これは大人になっても完全には治らなかった。
しかし、子供が生まれて、子供達に絵本の読み聞かせをするうち、徐々にだが普通に読むことができるようになってきた。その頃に学校からボランティアを募集するプリントをもらい、これで苦手を克服できるのではないかと思い、参加することにしたのだった。
結果、最初はちょっと声が震えたが、何度も読み聞かせをするうちに、今では普通に最後まで読めるようになった。
前置きがとても長くなってしまったが、この記事のテーマである絵本のことに話を戻す。
実は自分は、あまり絵本が好きではない。
「面白い」と思える絵本に、出会ったことがなかったからだ。
自分が子供の頃に母に読んでもらった絵本は、「懐かしい」とは思う。だが、「面白い」とは感じられない。
それに加えて絵本の嫌なところは、薄くて文字数も少ないのに値段が高く、それでいて何度も重版されている(うちにある『しろくまちゃんのほっとけーき』は154刷である)という点だ。
重版に縁のない作家としては、とても憎い。
《大人も読める(泣ける)絵本》というジャンルは、特にあざとく感じられて嫌いである。●●という人の絵本も、一時期話題になった『■■』という作品も、全く読む気がしない。読んだら負けだとすら思う。
そんな自分が、小学生を相手にどんな絵本の読み聞かせをしてきたかというと、落語絵本の『そばせい』を読んで、オチで子供達に悲鳴を上げさせたり、
東北弁のイントネーションで『ひさの星』を読んで、「なんて言ってるのか分からなかった」という感想をもらったりしてきた。
それらのネタが尽きてくると、図書館で「このレベルなら読んであげてもいい」という、何様かというような上から目線で「結構面白い」と思う絵本を選び、読み聞かせをするようになった。
高学年向けに『おおきな木』を読んだり、
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低学年向けには『かめだらけおうこく』という、亀だらけの本を読んだりした。
それらの絵本は、素直に好きとまでは言えないけれど、確かにある程度、「面白い」と思えた。何冊も絵本を読むうちに、絵本を憎む荒んだ心が浄化されてきたのかもしれない。
そして、先月のこと。
読み聞かせの当番が回ってきたので図書館に向かうと、図書館が休館日で、絵本が借りられなかった。そこで自分は、ブックオフで中古の絵本を探すことにした。
そうして出会ったのが、『タイナ』という絵本だった
花が好きな恐竜の《タイナ》が主人公の話である。
自分はこの絵本を読んで、鳥肌が立ち、気づいたらなぜか泣いていた。
丁寧に選んだ言葉で編まれた、王道の物語。
そしてページから溢れて出てくるような、色とりどりの花と森と恐竜の絵。
『タイナ』は、《完璧な絵本》だった。
自分はそう感じた。
(できれば新品で買って手元に起きたいのだが、オンライン書店では在庫が見つからず、まだ手に入っていない)
この絵本は、こんなにも素晴らしい作品なのにAmazonにレビューが一つもついておらず、しかも初版しか出ていないようなのだ。
それで自分は、この歳になってやっと、絵本に対しての認識を改めた。
出会っていなかっただけで、自分が好きだと思える、面白い絵本はあるのだ。
そして今さらだが、もっと面白い絵本に出会いたいと思い始めた。
今は一緒に読み聞かせをしているお母さんたちにおすすめの一冊を聞いたり、図書館の絵本コーナーで気になる本をチェックしたりしている。
『タイナ』のような心を動かされる作品に、また出会えたら嬉しい。