どうにもならない

どうにもならない人のライフハック

10年続くいじめスパイラルから抜け出す方法

小学4年生の時、Tさんという女の子と同じクラスになった。

Tさんは背は小さいが活発で目立つ女の子で、身長順に並ぶ時は、同じく背の小さい自分の前に並んでいた。全く活発でなく目立たない自分は、初対面から「なんであんたが私の後ろなの」と言われ、何が気に障ったのか、それから彼女のいじめのターゲットとなった。

Tさんのいじめは独特で、なぜだかいじめの対象と、友達のように付き合う。実際、彼女は友達だと思っていたのかもしれない。放課後、遊びに誘われるようになり、遊んでいる間はTさんの言いなりにならなくてはいけなかった。

Tさんはわがままで、遊びの内容はTさんが決める。そしてTさんが止めると言うまで続く。逆らうと怒り出すので面倒な子だった。

ある日、足の速いTさんと二人きりで延々追いかけっこをさせられ、あんまり嫌になったので途中で帰った。自分も怒る時は怒るのだ。

すると翌日、Tさんは学校でクラスの女子達に「あの子、変な笑い方をするんだよ」と自分の笑い方を真似して見せた。Tさんは人を笑わせるのが上手で、女子達はそれから、自分の笑い方を馬鹿にして真似するようになった。友達のいない自分に、味方はいなかった。

Tさんに逆らうと嫌な目に遭うと分かってからは、なるべく彼女に従うようにした。Tさんの好きなジブリのアニメのアテレコ遊び(ビデオを観ながら声優と同じタイミングでセリフを言う)に延々と付き合わされた。トトロを探しに行こうと誘われ、藪の中を蚊に刺されながら暗くなるまで歩き回った。魔女になる修業をしようと言い出し、二人で箒に跨ってちょっとでも体が浮くまで「飛べ」と念じ続けた。どれもあまり楽しくなかった。

Tさんは今思えば少しおかしな女の子で、自分にだけそのおかしな面を見せていたのだと思う。自分の学校は6年生までクラス替えがなく、Tさんとの付き合いは続いた。

卒業後、Tさんは自分と同じ中学に進み、残念ながら同じクラスになった。中学生になって、Tさんのいじめは少し様相を変えた。自分のことを友達ではなく、親友だと言うようになった。

Tさんは家庭環境が複雑な子で、よく親についての悩みを打ち明けられた。

「こういうこと話せるの、あんただけだから」とTさんは言った。

ごく普通の家庭に育った自分は大したアドバイスはできなかったが、ただTさんの話を聞いていた。それが親友の役目だと思った。

Tさんに誘われるまま同じ部活に入り、登下校も一緒にするようになった。Tさんは時々わがままに振る舞うこともあったが、小学生の時のような幼稚さはなくなり、この頃には一緒にいることが苦ではなくなっていた。

だが、それはほんの短い間のことだった。

ある日、自分が家にあった『飛べ!ぼくのマンタ』という本を読んでイトマキエイがトビウオのように水面を飛ぶことに驚き、学校でその話をTさんにした。Tさんは「あんな大きなものが飛ぶはずがない」と全く信じようとしなかった。それで放課後、Tさんの家に『飛べ!ぼくのマンタ』(皮肉にもいじめられっこの少年がイトマキエイの飛ぶ姿をカリブ海まで見に行って勇気をもらうという内容だった)を持って行って写真を見せ、「本当だったでしょう」と言った。Tさんは「本当だったんだ」と言いながら暗い目で写真を見つめていた。

翌朝、Tさんは待ち合わせ場所に来なかった。そしてクラスの同じ部活の女子達が、口をきいてくれなくなった。無視されたまま部活動を終えて帰り、翌日には無視だけでなく、廊下でわざと体をぶつけられたり、聞こえるように悪口を言われるようになった。

そんなことが2週間続き、自分は学校に行けなくなり、学校に行ったふりをして(以前記事に書いたように親に言って学校を休むことができなかった)

中学時代の自分が登校拒否したいくつかの理由 - どうにもならない

公園や図書館で半日過ごして帰るようになった。担任から電話がきて、学校に行っていないことは1週間も経たずに親にばれた。理由を問い詰められ、同じ部活の人達からいじめられていると話すと、担任はすぐに対処してくれて、翌日には嫌がらせをしていた面々から謝られた。

だが、Tさんは謝らなかった。

Tさんは「あいつら最低だね」と嫌がらせをしていた子達に対して怒りをあらわにし、「私があいつらから、あんたを守るからね」と言った。

Tさんの表情に後ろめたそうなところは一切なく、Tさんの中で、自分は本当に《親友》なのだと分かった。

おそらく自分より頭がおかしいのに、それを周囲に気づかせずに相変わらず女子の中心にいるTさんが、本当に怖かった。

幸いなことに、Tさんとは中学2年生で別のクラスになることができた。学年が変わってから、自分は必死で新しい友達を作った。そうしなければTさんから逃げられないという切実な動機があった。失敗もしたが

たった一日で友達を失う方法 - どうにもならない

なんとか奇跡的に自分と同程度の頭のおかしい友達が二人ほどでき、一緒に気持ち悪い詩を書いたり、手首に針を刺し合ったりするようになった。そんな普通じゃない友達だが、Tさんのように怖くはなかったし、付き合っていて心地良かった。彼女達とはいっぱい一緒に笑うことができた。

新しい友達のおかげで、ある程度Tさんと距離を置くことはできたが、部活は同じだったので完全に付き合いは切れなかった。時々、遊びに誘われて、そのたびに緊張しながら一緒に過ごした。

高校は、Tさんがあまり勉強ができないタイプだったおかげで別のところに入れたが、それでもやっぱり、時々遊びに誘われた。全然好みでない映画に付き合わされて、同じ学校の友達の悪口や、親の愚痴を聞かされた。たまにしか会わないせいか、Tさんに対して昔ほどの恐怖は感じなかったが、それでもまだ、誘いを断ることができないでいた。

自分がTさんと完全に決別できたのは、大学生になってからだ。

Tさんは高校を出てから、関東にある看護学校に進んだ。自分はよく知らないが、有名な医大に併設された素晴らしい看護学校なのだと、わざわざ電話をかけてきて教えてくれた。Tさんは医大のテニスサークルに入り、近々サークルの医学部の先輩と付き合うことになりそうだと言った。

「その先輩、竹内さんっていうんだけど、竹だから《バンブー》ってみんなから呼ばれてるんだ

Tさんはそのあと、先輩について「BMWに乗っている」というようなことをさらに自慢をしようとしたのだが、自分は《バンブー》で大笑いしていて、ほとんど聞けなかった。Tさんは怒って電話を切った。

《バンブー》とみんなから呼ばれる男を好きになったTさんは、その瞬間から自分の中で、死ぬほどかっこ悪くて、つまらない人になった。全く怖くなくなった。

Tさんからはその後、成人してから一度だけ電話が来たが、「《バンブー》どうしてる?」と聞いたらガチャ切りされ、以来交流がない。