どうにもならない

どうにもならない人のライフハック

しつこく絵を売りつけてくる人達を100%撃退する方法

就職して間もない頃、自分が働いていた総合スーパーの催事スペースで、ヒロ・ヤマガタラッセンの絵の展示即売会が開催された。

当時、自分は東北から出たことのない純朴な田舎のスーパーの店員であったので、それが気の弱い人に版画を売りつけるための展示会だとは知らず、休憩時間になんとなく暇だったので立ち寄ってしまった。

純朴なスーパーの店員ではあったが、絵を見ている間、ずっとスーツを着た茶髪の男が付きまとって余計な説明をしてくるし、自分がヨドバシカメラで買った2000円の腕時計を「凄いカッコいい時計っすね。お客さん、センスいいですよ!」などと褒めてくるので、大分怪しい展示会だとは感じていた。

自分があまりノリが良くないのに気づいたのか、茶髪の男は「もしかしてこういう絵、あまり好みじゃないですか?」と聞いてきた。 言われて見ればこういう絵は全く好みではなかったので「そうですね、自分はもっと暗い感じの絵が好きです」と答えた。

その瞬間、男は突然ハッとした表情をして見せ、「少々お待ちください!」とテンション高く言うと、奥に引っ込んでいった。 しばらくして、奥から《課長》と呼ばれる、オールバックでごつい指輪をしたおっさんが出てきた。

おっさんは「普段は人に見せないんですが、お客様は特別です」と言って、自分を展示場の隅にある薄暗いブースに連れ込んだ。 そこにあったのは、微妙な感じにライトアップされた、ただ単にモノトーンなだけの、 ヒロ・ヤマガタの版画だった。

それからずっと、その薄暗い場所で「ローンを組んで版画を買え」という話をされたが、自分は「別にこの絵は欲しくないですから」と言って断り続けた。 しかしおっさんは「じゃあ、あなたはどんな絵が欲しいんだ!」としつこく聞いてくる。

疲れて素になっていた自分は、思わず本音で「全裸の女が自分の赤ちゃんをバリバリ食っているような絵」と答えた。

おっさんはそれを聞いて、「あんたみたいなタイプはねえ、一生絵なんか買わないんだよ」と言って出て行った。

それから数年後、自分は結婚してスーパーを辞め、東京で働くことになった。そして上野の美術館で『我が子を食らうサトゥルヌス』という絵を見て「これこれ、こういうやつ!」と思ったのだが、それは売り物ではなかったので、結局自分は絵を買ったことがないままだ。