どうにもならない

どうにもならない人のライフハック

二次元に恋する大人が守るべきいくつかのルール

自分は漫画のキャラクターに、本気の恋愛感情を抱けるタイプの変態である。

自分の二次元の初恋は『ドラゴンボール』の孫悟空だった。小学校の高学年の頃だったと思う。

悟空に恋した自分は、少しでも悟空にふさわしい女の子になるために、毎日200回の腕立て伏せと腹筋を日課にした。おかげで小学6年生まで、腕相撲では同学年の男子の誰にも負けたことがなかった。

さらに走るのも速くなければと、朝6時に起きて校庭の200メートルトラックを10周し、翌日は11周、その翌日は12周と、徐々に距離を増やしていく過酷なトレーニングも始めた。

幸い、16周目の朝に雨が降ってくれたので、次はまた10周からということにできたが、あれ以上晴天が続いたら、走るのが遅い自分は間違いなく学校に遅刻することになっただろう。

そのうち、悟空が「高速で反復横飛びをすることで姿を消す」という人間には完全に不可能な技を習得し、このレベルには到達できないなと、走ることに関しては諦めた。

ちなみに《かめはめ派》についてはなかなか諦めきれず、『霊感少女入門』という本を参考に、両手に気を集める練習を続けていた。

そうやって無意味に体を鍛えること以外にも、二次元の恋の楽しみはある(というか多分、普通はそっちがメインの楽しみなのだろう)

自分の場合は、原作の漫画には存在しない女の子のキャラクターを勝手に作り出して、そのキャラクターに自分を投影した。鳥山明先生を真似たテイストで、女の子の下手くそなイラストを描いてみたり、そのキャラクターが活躍するアナザーストーリーを妄想したりした。毎晩そうして、布団の中で新しいストーリーを考えることを楽しみにしていた。

勝手な妄想ストーリーを生み出しながらも、自分は大好きなキャラクターの住む世界、つまり《原作》を大切にする変態だった。

だから原作の中で、青年となった悟空があっさりチチと結婚した時点で、肉体と精神を捧げた自分の初恋(二次元の)は終わった。

失恋した自分はその後、『ドカベン』の殿馬、『じゃりン子チエ』の小鉄、『コータローまかりとおる!』の天光寺と、わりと節操なく色んなキャラクターに恋するようになった。

ただ、悟空の時ほどの情熱はなかったので、せいぜいアナザーストーリーを考えて楽しむ程度の薄い恋だった。秘打の練習もしなかった。

そしてどのキャラクターに対しても、彼と結ばれる女性キャラが出てきた時点で、身を引く(妄想をやめる)というルールは守った。小鉄に関しては、自分が知る限りそういうキャラは出てこなかったので恋心は続いたが、相手が猫だという時点で、そこまでのめり込まずにいられた。

そんな変態的な二次元への恋へのエネルギーは、思春期を迎え、現実の恋をするに従い、徐々に萎んでいった。

やっと自分も、真人間に近づいてきたのだ。

生まれて初めての恋人ができた時には、付き合って二週間で二股をかけられていたことが判明し、しかもそれを責めたら「向こうと別れるつもりはないから今後も二股でいいなら付き合ってあげる」となぜか上から目線で言われ、この辺りで漫画のキャラクターに恋するような無垢な心は失った。

その後も自分は、「恋人が自分の友達や後輩に次々と告白し、振られたと泣いて報告してくる」、「恋人が突然遊びに来た友達に自分を見られることを恥じ、『帰るまで隠れてて』と押入れに2時間閉じ込められる」などの、まともでない恋ばかりを経験した。

現実の恋は、決して自分を幸せにも、真人間にもしてくれなかった。

恋愛に対して、「こういうことは自分には向いていない」と諦めの境地に至った頃に、自分は今の夫であるYさんと婚約した。

そしてこの婚約期間中に、約10年振りに、二次元のキャラクターに恋をした。

そのキャラクターとは、Yさんに面白いと勧められた『狂四郎2030』という漫画の主人公・廻狂四郎だ。彼の笑顔と強さと、時折見せる残酷さに、完全にやられてしまった。

自分は狂四郎に関しては、妄想の類を一切しなかった。

狂四郎にはストーリーの最初から、《志乃》という仮想世界で出会った妻がいるのだ。

自分は「狂四郎が好きだ」という思いだけで満足し、彼の笑顔や活躍を見るだけで幸せになった。当時、まだ連載中だった作品を楽しみに読みながら、狂四郎が志乃と現実世界でも結ばれることを願った。

初めての、大人の恋(二次元の)だった。

こうして過去形で書いているが、この《大人の恋》は、作品が完結して10年以上経った現在も続いている。

妄想は全くしない。時折単行本全巻を読み返しては、狂四郎の笑顔と活躍、そして志乃との絆に、満たされた気持ちになる。

そして狂四郎と出会ってからこれまで、彼以外には、誰にも恋をしていない。節操のなかった昔と違い、大人になった自分は、たった一人の人を愛せるようになったのだ。

恐らく現実世界でも、もう一生涯、恋をすることはないだろう。

狂四郎以上に素敵な男性がこの世に存在するとは思えないし、何より結婚してるし。