子供の頃、飼っていた犬が自動車にはねられる瞬間を 見てしまったことがある。
実家で飼っていたのは秋田犬という種類の大型犬で力が強く、 自分が散歩をさせていた時、うっかり引き綱を離してしまった。 犬は結構なバカ犬だったので呼んでも全く戻って来ず、 それどころか車がガンガン走っている6車線の道路を ダッシュで渡って逃げようとした。 そして5車線目で乗用車にはねられ、7メートル飛んだ。
飛んだ後、犬は車道をゴロゴロと転がり、そしてなぜか 普通に起き上がり、またダッシュで逃げて行った。 急いで家に帰って父に報告すると、 「犬は死ぬ時は姿を隠すもんだ。多分もう助からないんだろう」 と、悲しいことを言われた。
それから、家族総出で懐中電灯を片手に犬の死体を探した。 しかしなかなか見つからない。 母が「あんた達は先に帰って夕飯食べてなさい」と涙目で 言うので、自分は妹達を連れて泣きながら家に帰った。
家に着き、玄関の鍵を開けようとしたその時、 妙にスッキリしたような顔をしたうちの犬が、 元気にこちらに向かって走ってきた。前足に擦り傷が出来ていたが、 普通に走っている。尻尾まで振っている。
とりあえず犬を小屋に繋ぎ、父の所へ行って犬が戻って来たことを話すと、 「いや、きっと内臓はグチャグチャだ」 と、また悲しいことを言われた。
「犬が車にはねられたので診て欲しい」と電話し、急いで 動物病院に向かった。病院に向かう途中も、犬は普通だった。 そして病院に着いた時、医者は犬を見て鼻で笑い、 「秋田犬はねえ、車にはねられたくらいじゃ骨も折れませんよ」と言った。
一応レントゲンも撮ったが、擦り傷以外全く怪我は無かった。 そして犬は何事も無かったように普通に夕飯を食い、その後12年生きた。